
今日、私が訪れたのは、活気に溢れた浅草の街だ。
この日は大通りの菓子屋の隅に、一風変わった露天商がいると聞いてきた。
人が群がるほどでもないが、人気があることは伺い知れている。
そこを取り仕切っているのは、一人の快活な少女だった。
一言で言い表せない、人間離れした見目麗しさがある。
「あ、そこのお兄さん!どうぞ、見ていきませんかー?」
露店から響く、凛とした鈴のような声。
自分が呼び止められたと思い込んだ男たちが次々に足を止める。
既に足を止めている私もその一人に含まれてしまうのだろうか。
「どうですか、このかんざし!この華やかで綺麗な細工! 世の女性なら惹きつけられること間違いなし!」
彼女の笑顔と接客で、思いがけずの勢いで、かんざしを買っていく人の多いこと。
しかし、その気持ちも理解できる。彼女の朗らかな笑顔を目の前にしたら、自分もついつい買ってしまうだろう。
まさに商売上手という言葉がぴしりと当てはまる。
少女があれやこれやと甲斐甲斐しく働く内に、露店の商品は売り尽くされてしまった。
それからしばらくして、露店に老婆が訪れた。
「こっちは趣味みたいなものだったから、こうして売れていくのを見ると嬉しいよ。ありがとうね、ゆきちゃん。いつもいつも助かってるわ」
「いえいえー、これも立派なお仕事ですから。それに、たまにやるのは楽しいですし」
どうやら老婆は少女の雇い主であり、この露店の店主であるようだ。
彼女はこの露店をよく手伝っているらしい。
しかし、あの老婆は何も知らないのだろう。
自分がゆきちゃんと呼んでいる少女の名前は“不動行光”。
彼女は人間ではなく、巫剣と呼ばれる刀剣の化身たる存在。
そして政府直下の機関である御華見衆の保護および観察の対象……なのだが、
彼女は既に御華見衆の一員として、協力している立場だった。
そういった立場である彼女は忙しく、あまり休暇もないということだったのだが、いざ休暇になると、こうして誰かのために働いているようだ。
「それじゃあお仕事もほとんど終わったし、うちの店で菓子でも食べていくかい?」
「はい!あ、きんつばあります?あたし、おばあちゃんのところのが一番好きなんですよー」
その言葉に老婆が誰なのかに思い当たる。
見たことがあると思った。この老婆は菓子屋の店主だ。
「一番だなんて嬉しいこと言ってくれるねぇ。ゆきちゃんは本当に孫みたいだよ」
「孫にはなれないですけど、空いてればいつでもお手伝いしますからね」
こうしていると、ただの美しい少女にしか見えない。
そう、巫剣である彼女は、この帝都の日常を人として謳歌している。この人の世で、慎ましく生きようとしているのだ。そう考えて、思わず私の頬も緩んだ。
「本当、ゆきちゃんはいい娘だねぇ……」
「はい、いい娘ですよー♪」
老婆に頭を撫でられてはにかむ彼女は、今日一番の笑顔であった。
以上を御華見衆観察方の報告とする。