およそ半刻前、上野公園に複数の禍憑が出現したことを受けて、わたし水心子正秀はソボロ助廣さんとともに討伐に向かった。
戦闘が始まって早々、禍憑たちは蜘蛛の子を散らすように方々へ逃げ去ったのでわたしたちは別行動を取り、それぞれ後を追った。
数も個体の強さも想定の範囲内だった。何も問題なく各個撃破で任務を終えることができる――はずだった。
そして今、立ち並ぶ商家の屋根の上、長い追跡の果てにようやくわたしは禍憑たちを追い詰めつつあった。
けれど、あと一歩というその時、突然頭上から「彼女」が降ってきた。
それはわたしにそっくりで、わたしと正反対だった。

「Slowpoke……お先にいただいちゃうわよ」

わたしが状況を把握する間もなく、彼女は禍憑たちを次々に斬り伏せてしまった。
うだるような暑い夜が見せた悪い夢? いいえ、違う。彼女は間違いなくそこに実在する。

「わたしは御華見衆の巫剣、水心子正秀! あなたは何者ですか!」
「Shut up!! 誰の前でその名を名乗っているの? わたしこそが水心子正秀よ」
「Whatッ!?」

なるほど……彼女こそが、観察方から報告のあった“影打”と呼ばれる存在なのだろう。
信じがたい口上を耳にしている間に禍憑が数体、屋根を降りて通りを駆け始めた。人々の悲鳴が次々に上がる。

「あなたみたいなグズにかまっている暇はないの。大事な獲物が逃げちゃうじゃない」

影打はこちらに背を向けて通りに降り立つ。わたしも後を追った。