東京府四谷鮫河橋近くには昼間でも薄暗い鎮守の森がある。ふだん人を寄せ付けないその森の中に、しかし今は10人ほどの少年少女がいた。
いずれもみすぼらしい格好をしており、その小さな膝小僧や手のひらは泥に汚れている。

「お……おまえが探検なんかしようって言うから……」
「うわあーーん!! 勝手に森に入ったからきっとバチが当たったんだよ!」

彼ら身を寄せ合うようにして固まり、は泣きべそをかいて小さな体を震わせていた。

「グルルル……!」

いたずらに森に立ち入った彼らは、そこに潜んでいた禍憑の群にでくわし、すっかり取り囲まれていた。

「うう……誰かあ!!」

泣こうが喚こうがここには大人はいない。よしんば居合わせたとしても、人の力でどうこうできる状況ではない――はずだったが、その時思わぬ所から声がした。

「先刻から何事ですの? 騒がしいったらないですわ」

その澄んだ声に子供たちは一瞬互いに顔を見合わせ、それからそろって同じ場所を見つめた。
視線の先にはこの森に古くから建つ小さなお堂がある。
声はその中から響いた。
禍憑たちもそちらへ向き直り、格子戸の奥の闇を睨みつける。
格子戸がゆっくりと開く。中から出てきたのは見目麗しい女性だった。
手に分厚い書物を持ち、腰に短刀を携えている。

「せっかく余暇を利用して書物を読みふけり、"いんぷっと”に励んでいたというのに」

気の強そうな目元と、どこか高貴な言葉づかい。
お堂からお姫様が出てきた! 子供たちはとっさにそう思った。