それは、なんとものどかな光景だった。
美しい少女が一人、川辺で歌っていた。少女の雰囲気は朗らかで、周囲の雰囲気まで明るくなるようだ。その右肩には、蛇のようなものが乗っている。よく見ればそれは宙に浮いており明らかに蛇ではないのだが、遠くから見るだけではわからないだろう。

「らん、ら、らん、らーん♪」

少女は即興で歌っているらしい。特定の旋律はないが、でたらめというわけではなく、大きな流れがあり、そこに心を委ねているようだった。
まるで、少女の目の前の川の流れのようだった。
それもそのはず、少女の歌は、その川の流れそのものだった。
少女の名は水神切兼光、巫剣である。
その名は彼女が、猛り川を氾濫させた水神を斬り、鎮めたという逸話に由来する。

「ぴきゅるるる〜♪」

少女の傍らで一緒に歌っている小さな蛇のようなものは、実はその水神に与えられた化身・白竜なのである。上機嫌に空中でにょろにょろ身をくねらせる様子からは、そんな大層なものにはとても見えないが。
だが、ふと水神切兼光は気付いた。
歌っている旋律に、小さな不協和音が混じったことに。