御華見衆総司令部に小烏丸が入室して来る。
「今しがた、天下五剣が到着した。お勤め、確かに果たしたのじゃ」
凛とした声が七星剣こと御華見衆司令官である私に天下五剣の到着を知らせる。
天下五剣――童子切安綱、三日月宗近、鬼丸国綱、大典太光世、数珠丸恒次の五人の一際高い力を持つ巫剣のことだ。
「ご苦労だったな、小烏丸。ここへ通せ」
その言葉に頷いた小烏丸が退出するのを見送った私は、丙子椒林剣に視線を向けた。
「……また、このような事態になろうとはな」
「嘆いても仕方のないことですよー、七星剣。あら、お客様にお茶の用意が必要かしら」
ぱたぱたとお茶の用意に向かったのは、私の竹馬の友である御華見衆副司令、丙子椒林剣。
私と丙子椒林剣こそが、この御華見衆という組織の中核である。
大乱も収まり、平和な世に向かいつつあった銘治の世。
だが、その陰で絶えることなく蠢く闇があった。
それらを監視し、未然に災厄を防ぐために設立されたのが御華見衆だ。
我ら巫剣は人の世に不幸をもたらす亡霊を祓う存在なのである。
「原因もわからぬまま、天下五剣に頼るしかないこの状況……司令官としては頭が痛い」
先日、古戦場跡を中心に亡霊が溢れだしつつあると数珠丸に告げられ、すぐに小烏丸を伝令へ向かわせた。
ただ怪異を祓うだけならば、巫剣であれば誰でもできよう。
だが、御華見衆でこの事態に対応できるのは、強い力を持つ天下五剣たちしかいない。
我らは守らねばならない、この世を……。
巫剣たちの未来を守るため――。
「もうー、七星剣ったら、そんな顔をしたら駄目ですよ?
眉間に皺を寄せちゃってると、かわいいお顔が台無しですからね~」
丙子椒林剣が私の頬を両手で挟んで、撫で回す。
「これより大事を行うのだ、さもあらん」
「も~。相変わらず真面目さんですねぇ。もっと肩の力を抜かなきゃだ~め、ですっ」
肩を揉まれ、私は跳ねるように身じろぎをする。
「ほらほら~、どうですか~♪」
「ひゃあっ!? やめろ! 今は遊んでいるときではないだろう!!」
「ほらほら~、そうやって肩肘張らずに……もーっと力を抜いて~」
身を寄せてきた丙子椒林剣の胸が私の頭に当たる。
それがぽよんぽよんと、肩を揉む度に頭の上で跳ねて鬱陶しいことこの上ない。
いい加減にしろ、と叫ぼうとした時、扉を叩く音が響いた。
丙子椒林剣はさっと身を離し、私に目配せする。
まったく、そうであれば最初からふざけるでないわ……。
「うむ。通せ」
身なりを整え、毅然とした表情で並び立つ。
天下五剣との出会い――これはきっと、一つの始まりとなるだろう。
電撃G'sマガジン 2016年2月号掲載