めいじ館の茶房で珈琲を飲みながら、
私――城和泉正宗は時計の針を睨んでいた。
- 城和泉正宗
- ……はぁ
- 桑名江
- あらまぁ、ため息をついてばかりだと幸せが逃げてしまいますよ?
- 城和泉正宗
- 桑名江はいいわよね……私と違って気楽で……
- 桑名江
- 前にもお伝えしましたけど、わたくしは良い機会をいただけたと思っていますよ?
- 城和泉正宗
- 私はそうは思わないけどね
- 牛王吉光
- ……まったく。相変わらず強情だね、城和泉
- 城和泉正宗
- はいはい、軽口に付き合う気はないわよ
- 牛王吉光
- おやおや、せっかくの迎えがそんな態度では問題だね。今からでも桑名江に代わってもらうよう副司令に頼んでみればいいんじゃない?
- 城和泉正宗
- そんなことできるわけないでしょ! 副司令に迷惑をかけるわけには……
- 牛王吉光
- 自分で迷惑だって思ってるなら諦めなよ。キミは本当に面倒臭いね
- 城和泉正宗
- はぅ!? 余計なお世話よ! もうっ!
- 桑名江
- あれ? そういえば牛王さんは往診に出かける予定でしたよね?
- 牛王吉光
- そうだよ? これから出るんだ。その前に城和泉がまだ不機嫌なのか確かめておこうと思って
- 城和泉正宗
- ごーおーうーよーしーみーつーっ!
- 桑名江
- 城和泉さん、抑えて抑えて……もうすぐ迎えに出るんですからっ!
- 城和泉正宗
- そ、そうよね……ごめんなさい、桑名江
- 牛王吉光
- うん、表情がほぐれてさっきより大分ましになったんじゃないかな? それならぎりぎり及第点だ
- 城和泉正宗
- もう! あなたはさっさと行きなさい! 斬るわよっ!
- 牛王吉光
- おっと、怖い怖い。それじゃ退散しようかな。桑名江は出かける直前までしっかりみてやるんだよ?城和泉の短気で大事な巫剣使いが逃げ出したら世話がないからね
- 城和泉正宗
- ぐぬぬ……いちいち余計なのよ、あなたは!
- 桑名江
- あはは……いってらっしゃい、牛王さん
- 牛王吉光
- うん、行ってきます
牛王吉光は振り返らずに茶房を出て行く。
その後ろ姿がどこか決まっているのが、なんだか悔しい。
- 桑名江
- 珈琲、冷めてしまいましたよね。緑茶を入れ直したので、出るまでゆっくりしてください
- 城和泉正宗
- ありがとう、桑名江……やっぱり持つべきものは桑名江よね
- 桑名江
- ありがとうございます。でも、ちょっと意味が……
- 城和泉正宗
- はうぅ!? いいの! そんな感じなんだから!
- 桑名江
- でも牛王さんの言う通り、表情が柔らかくなりましたね。実は緊張していたんじゃないですか?
- 城和泉正宗
- ええと、その……そうかも
- 桑名江
- 城和泉さんはもっと気楽に構えた方がいいと思います。いつもの城和泉さんが一番魅力的だと思いますから
- 城和泉正宗
- ……あ、ありがと
あまりにも真っ直ぐに言われたので、思わず桑名江から目を逸らしてしまう。
気恥ずかしさのあまり、緑茶の味がわからなくなってしまったのは、桑名江には秘密にしておこう。
- 城和泉正宗
- そろそろ時間ね。それじゃあ、行ってきます!
- 桑名江
- はい、いってらっしゃい
めいじ館から出ると、雲一つない青空が広がっていた。
天気もめいじ館の新しい一員を歓迎してくれているのかもしれない。
こんな風に気楽に考えられるのは、桑名江と……一応、牛王吉光のおかげ。
- 城和泉正宗
- いったい、どんな人が来るのかしらね
街道を上野駅へ向かって歩く。
しばらくして、人影を見つけた。
士官学校の制服を着ているから、あの人に間違いない。
――こうして私たちは邂逅し、戦いは始まりを告げたのだ。
電撃G'sマガジン 2017年4月号掲載