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めいじ館は浅草と上野の近くにある洋風茶房。
このあたりでは珍しい店なので、毎日結構お客さんが入ってくるの。
いつもは少し値段が高めなんだけど、朝は英国では当たり前らしいもーにんぐとかいうお手頃な値段の朝食を提供しているから、朝はとても忙しい。
だからこそ、こうして朝から準備しているわけなんだけど。
- 城和泉正宗
- テラスの準備終わったわよ、次はどうすればいいの?
- 桑名江
- ええと……そうですね。外で既に待ってるお客様もいるようですし、早めにパンを焼いてしまいましょうか
- 城和泉正宗
- はーい、わかったわ。ところで牛王吉光はそこでなにをやってるのよ?
- 牛王吉光
- なにって……見てわからないの、城和泉正宗? 朝食に決まってるじゃないか
- 城和泉正宗
- そういうことを聞いてるんじゃないの! なんで私たちが準備してるのに、あなたがそうやってのんびりご飯食べてるのよ!
- 牛王吉光
- わたしの仕事はもう終わってるからに決まってるじゃないか。珈琲豆はわたしが選定して買ってきてるんだし、勘定も手伝ってる。ここで給仕する以外、めいじ館のためになにもしていないキミと一緒にして欲しくないね
- 城和泉正宗
- そ、そんなことないわよ! 私だっていろいろ……
- 桑名江
- 城和泉さん、手が止まってますよ?
- 城和泉正宗
- ほぇ!? ご、ごめんなさい! すぐ焼くわね!
- 牛王吉光
- 慌ただしいね、まったく。ご馳走様。そっちに持っていけばいいかな?
- 桑名江
- いえ、わたくしが取りに参ります
- 牛王吉光
- じゃあよろしく。わたしは食後の珈琲をいただくから
- 城和泉正宗
- ちょっと牛王吉光!
- 桑名江
- まぁまぁ、城和泉さん。あれで牛王さんはちゃんとお仕事しているんですから
- 城和泉正宗
- それはわかってるけど……
- 桑名江
- 牛王さん、これ持っていっちゃいますね
- 牛王吉光
- うん、よろしく。そこ、掃除用具が置いてあるから、足元に気をつけて
- 桑名江
- ああ、はい。大丈夫です。さっきもちゃんと避けまし――きゃあ!?
- 城和泉正宗
- ちょっと!? 大丈夫、桑名江!?
- 桑名江
- わたくしの方は怪我もないのですが、お皿が……。うう、これもひとえにわたくしの不運が原因でしょうか……
- 牛王吉光
- どちらかと言えばただの不注意に見えたけどね……
- 城和泉正宗
- 別にいいじゃない。今悪いことがあったなら、次は良いことがあるんでしょ? だったら、開店満員は決まったようなものじゃない
- 桑名江
- なるほど! そういう考え方もできますねっ! さすが城和泉さんです!
- 城和泉正宗
- えへへ……
- 牛王吉光
- 脳天気で結構だね、キミたちは
- 城和泉正宗
- 勝手に言ってなさいよ、牛王吉光。私の完璧な仕事振りを見せてあげるわ!
- 牛王吉光
- まぁ、それなりに期待してるよ
- 桑名江
- あの……おふたりとも、少しいいでしょうか?
- 城和泉正宗
- 改まってどうしたのよ、桑名江?
- 桑名江
- もうすぐ開店ですから、お皿を拾って綺麗に掃かないといけませんので
- 牛王吉光
- ……ちょっと待った。この時計少しずれてないかな?
- 城和泉正宗
- 本当だ!? ちょっと桑名江、急いで片付けて!
- 桑名江
- き、急にそう言われましても……ッ!
- 今日もまた、戦いから離れた一日が始まっていく。
私たちの役目……それは本当は戦うことだけど、こうしてお店で誰かの笑顔を見ることも、最近は悪くないんじゃないかと思う。
電撃G'sマガジン 2016年11月号掲載