小烏丸より伝えられた上からの指令。
それはある軍医を九州・小倉の地へ送り届けること。
道中大きな問題は別になかった。けど問題は発生したのだ。
――小倉に着いてから。
「あらあら、鬼丸さんはもう帰ってしまうんですか?」
「これで指令は果たした。いつまでも留まっていられないから」
九州に着いてから、案内役として現れた巫剣・博多藤四郎。
彼女はなかなかにつけて厄介だった。
「まったく駄目ですよ、鬼丸さん。せっかく東からはるばる九州まで来たのに、なにも楽しまずに帰るなんて」
「五月蝿い。わたしがどう動くかはわたし次第。それを博多藤四郎にとやかく言われる筋合いはない」
わたしがやることなすこと全てに、もったいない、せっかくだからこうしようなどと小言を挟んでくるのだ。
わたしは別に遊びたくもなければ、この地に興味もない。
一仕事終えて帰るというだけなのに、彼女はいったい何が気に入らないのだろう。
「実はわたくし、鬼丸さんがいらっしゃると聞きまして、いろいろと準備をして来たんです。ほらほら、どうですか?」
「おぉ……凄い。けど、それ必要?」
博多藤四郎が差し出したのは、わたしと同じくらいの大きさの包み。
でも、何に使うのか全くわからない。
少なくとも、帰りの旅の荷物にしては多すぎる。
「鬼丸さん、これからご飯にいたしましょう」
「……はい?」
思わず呆気に取られてしまったわたしに、博多藤四郎は変わらず笑顔を向ける。
「……じゃあ、また機会があれば」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ぐぅー。
「あ……」
「ふふふ、小倉の郷土料理をお外で一緒にいただきましょう」
「そういうことなら……少しだけ」
「ではまいりましょう! あのあたりにちょうどいい場所がありましてー」
そう言って博多藤四郎は少し先の丘を指差した。
確かにあそこは日陰になっているし、居心地は良さそうだ。
「下調べ済み……なんだけ負けた気分」
「お腹は正直ということですね」
「美味しくなかったら、斬るから」
「それは怖いですねぇ。ではでは、行きますよ?」
小さな丘に着くと、博多藤四郎はそっと風呂敷を広げた。
座るとここからの見晴らしはなかなかに良い。
少し先に小倉城が見えるのが風流だ……と言うだろう知り合いの顔が浮かんだ。
「さて鬼丸さん……まずはこれ小倉の名物、鰯のぬか炊きですよ。どうぞ」
「ん……いろんな味が絡み合って……良くわからないけど、美味しい」
「では、これとこれとこれとこれも……」
包みから次々と出てくる料理の数々。
「多すぎる……わたしはそんなにいらない」
「そうですね、わたくしもそこまでは――そうだ! あそこにいらっしゃる方々にも振る舞えば……!」
「……わたし、帰っていい?」
大騒ぎになるのは勘弁して欲しい。世話好きはどうしてこういうのばかりなのだろうか。というより、世話好きの巫剣が多過ぎる気がする。
まったく、困ったものだ。
「はむ……」
まぁ、この美味しいぬか炊きに罪はないけれど。
電撃G'sマガジン 2016年10月号掲載