「ああ、少し離れていただけだというのに、こんなにも久しいとは……」

あの騒がしい天下五剣の集まりが終わり、遥か東京から故郷である金沢の地に舞い戻ったわたくしは、風の匂いを全身で受け止めました。
ああ、なんて気持ちがいいのだろう。そんな感嘆が漏れます。機械が跋扈する東京とは全てが違う。やはりこの地は綺麗で、清らかで、それでいて優しく――

「ねーねー、大典太ー。まだかなー? 護衛したら連れてってくれる約束だったでしょー?」
「ああもう、静かにしてくださいませ! 紅葉狩兼光! 人がせっかく浸っているというのに、台無しではありませんかっ!」
「えー、でも約束だし!」
「はぁ……そこを抜ければ、お望みの場所ですわ」
「本当っ!! じゃあ行こう! よし行こう! すぐ行こーう!!」
「おひとりで勝手に行っては駄目ですわよ! 貴女はわたくしの護衛でしょう……!」
「あ、そうだった。ごめんねー」

東京からここまで、わたくしの護衛を務めたのは、同じ巫剣である紅葉狩兼光。
明るく元気なのが取り柄なのですが、少々飽きっぽく、道中は扱いに困ることもしばしば……。
まぁ、あの童子切安綱とかいう小生意気な赤いのに比べれば、彼女などどうということもないですけれど。
そんなことを考えているうちに、目的の場所が近付いてまいりました。

「さて、心しなさい。ここが兼六園ですわ。四季によって見所が変わるこの場所はまさにわたくしに相応しい場所だと――」
「――おー、紅葉だ! これこれっ! これが見たかったんだよね! うんうん、凄い! 素晴らしい! この一瞬のために生きてるよ……!」
「……よ、喜んでいただけたなら光栄ですわ。ゆっくりと見て構いませんわよ。わたくしはその間にお茶を……」
「あ、ねぇ大典太! 紅葉料理だって! 食べていい? いいよね?」
「ああもうわかりましたわ! 行きます! 行けばいいんでしょうっ!」

 全く勝手気ままで困ってしまいます。ですが、わたくしも護衛をお願いした身。彼女に付き合うのが道理でしょう。

「おおー、やっぱり紅葉の天ぷらは美味しいね! 大典太もそう思うでしょ?」
「ええ。ほどよい甘さが上品で、お茶にも良く合いますわね」
「ほらほら、来てよかったでしょ? せっかく一緒にいるんだし」
「確かにそうですが……どうして貴女はそんなにも、わたくしを誘うんですの? 食事くらいであれば、別にひとりで行動しても構いませんのに」

 普段から何も考えずに動いているように見えるのに、こういうときになると気をかけてくるのです。

「えー、えーとね……友達と一緒の方が楽しいからかな。当然のことだよね!」

そう言って満面の笑みを浮かべる紅葉狩兼光に、わたくしは呆気に取られてしまいました。

「と、友達……?」
「うん! ここまで一緒に旅をした仲だし、もう大典太は友達!」
「あ……貴女の中ではそうなのでしょうね。ふんっ……」

そんなに真っ直ぐに言われると、少々気恥ずかしいというか、嬉しいというか……そんな感情が生まれてしまいます。本当に、困らされてばかりですわ。

「またそういうこと言うー。大典太ってば、だから友達少ないんだよ?」
「よ・け・い・な、お世話ですわっ!」
「わーっ! 怒ったーっ!?」
「……ふんっ、売り言葉に買い言葉ですわ。まったく。貴女という人は……」

本当に自分勝手で一言多い彼女ですが、お付き合いするとしましょう。
彼女にとって、わたくしはどうやら友達のようですから。

電撃G'sマガジン 2016年9月号掲載