近頃、京都鞍馬山の周辺に禍憑が現れるとの報が御華見衆に入ってきた。
そこで私、童子切は早速討伐に向かったのだった。
駆けつけてみると、取るに足らない雑魚であったのだが、中々の数が集まっていた。
道中に遭遇した禍憑どもといい、どうやら昨今の御華見衆の禍憑の報告に上がっていたように、世には悪い気が満ち始めて来ているのではないか、そう思わずにはいられない。
一応の使命を終えた私は、鞍馬山の隠れ里へと足を運ぶことにした。
巫剣の内外に溜まった穢れを祓うお手入れのためだ。
元来、巫剣は戦いによって刀と共にその身に穢れを蓄積していってしまう。
穢れが溜まり過ぎれば、その身は蝕まれていく。
だが穢れを払えば、巫剣はまた元の輝きを取り戻すことができるのだ。
それに、一番大切なことがある。
気持ちがすっと晴れやかになるんだ!
* * *
お手入れを終えて、すっきりとした私は、禍憑討伐に同行してくれた巫剣の今剣と最近完成したばかりという足湯を堪能していた。
出された少し温めのお茶が、とても良い。
そして、深緑の山々を展望しながらのおにぎりもまた格別だ!
「ふぅ……たまにはこんな贅沢もいいな。自分へのご褒美というやつだ。なあ、今剣?」
そう問うと、今剣は柔和な微笑みを浮かべた。
「はい。やっぱりお手入れをしてもらうと、とても良い気分になれますね。体が軽く、心も晴れやかになる……こういった休息もとても大切なものですわ」
「そうだな。今の世には悪い気の流れがある。私たちは常に万全な状態で戦えるように備えなければ」
「ええ……そうですわね。わたくしも、新たな主を見つけて、これまで以上の力を出せるようにしないと」
今剣が穏やかながらも力強く微笑む。
と、涼やかな風がその美しい黒髪を揺らした。
彼女は髪を手櫛でゆるやかに梳きながら、儚げな表情で空を見上げる。
戦うことは巫剣の運命――だとしても、今剣が笑顔を捨てて戦いに明け暮れるようにはなって欲しくないと思う。
ならば、私がみんなに代わって戦えばいい……。そして、平和な時代に生きる巫剣たちの笑顔を守るんだ。
「さてと、わたくしは先に参りますわ。童子切さまは、どうぞごゆっくりなさってくださいませ」
おもむろに今剣が立ち上がり、パタパタと走っていく。
私は空を見上げながら、今剣の言葉をふと思い出し、まだ見ぬ主の姿に思いを馳せてみる。
「主か……いや、らしくないな。私は仲間がいれば大丈夫だ」
私は食べかけのおにぎりを高く掲げ、新たな戦いへの決意を太陽に誓った。
「世のため人のため、私は悪を斬る!」
太陽はキラキラとおにぎりを黄金色に輝かせるのだった。
電撃G'sマガジン 2016年8月号掲載