夕日を見ると、決まってあの頃を思い出す。
みなで鬼討伐に遠征に出ていたあの頃を――。
さあ、行くぞ、と巫剣使いたる主殿は刀を掲げる。
私を初めとする鬼討伐に同行した巫剣たち、膝丸、髭切、波切、石切が次々に掲げた剣へと、その刃を重ねた。
私たちは刃、巫剣使いである主殿の刃なのだ。
人に正体を隠し、刃は戦場を駆け、主殿に代わって闇を討つ!
主殿の前では友にも、同志にも、武器にもなろう。
背中を預けた、その信頼感が無限の勇気を鼓舞してくれる。
けれど、人の命は短く、巫剣の命は果て無い。
巫剣は大義のために戦う存在に過ぎないのだ――。
ある時、立ちはだかる異形の鬼どもを退治せんと、遠征討伐の任務に就いた。道中は心躍る楽しい旅であった。
「縁起担ぎに、おにぎりを食べよう!」
いつも寡黙な膝丸が、鬼斬りなだけに、と合いの手を入れる。
この先、どんな苦難が起ころうとも、私たちに怖れるものなどない。そう思えた。いつも傍にみんながいたからだ。
「さあ、鬼退治だ!」
突撃の合図である鼓が、ドンドンと戦場に鳴り響き、巫剣使いの号令の元、鬨の声を上げる。
「私が先駆けるよ! 膝丸ついてきて!!」
「膝丸、心得た……私達で血路を開こう!」
私たちは力を合わせて、臆することなく邪悪を打ち祓うのだ。
「邪悪なる鬼よ! 我ら巫剣が成敗してくれるぞ!」
黄昏が天地に訪れる頃、ようやく戦いは決した。
そして、私達の活躍は口伝えで御伽話へと変わっていく。
夕暮れの海岸に、満ちていく潮騒。
その音色が時の振子が奏でる拍子のようだ。
流木に腰かけ、茜色に染まる陽を眺める。
橙色の光にこの身が洗われるようだ。
同行していた膝丸が、いつの間にか私の背中で、すうすうと寝息を立てている。
やれやれ、と呆れてみると、気が緩んだのか、ぐぅと小腹が鳴る。
私は手製のおにぎりを取り出し、頬張った。
一人で食べる黄金色の味わいに、物悲しさが込み上げてくる。
みなが車座を描き、私の作るおにぎりを食べていた頃を思い出す。
あれから長らくの時が過ぎた。
百華の誓いを経て、戦乱の道具であった巫剣たちは、心を持つことを許された。だが、不器用な私は、今も邪なる者を討ち払う任務を受けて、旅を続けている。
いつか再び輝く日を夢見て、誰かのために戦うことをやめることができないのだ。
「またみんなで、おにぎりを食べたいな……。一人より大勢で食べた方が、美味しいもんね」
まどろむ膝丸が、またみんなで遠征に行きたいね、と呟く。
今は二人、安住の地を探すように彷徨う日々を続けている。
もし再び巫剣が集まる日が来るのならば、私は先駆けとなろう。
もう一度、誰かにこの背中を預ける日が来るまで――。
電撃G'sマガジン 2015年9月号掲載