森の中を、風が駆けぬける。
もしその場に誰かがいたとしても、そのようにしか感じなかったはずだ。
鬱蒼と葉が茂り昼でも暗い闇の中で、その迅く、小さな姿を視界に捉えることなど、人の目には不可能だからだ。
風は2人の少女だった。それぞれ短刀を手に、森の中で「何か」を追っている。
少女たちに追われているのは「禍憑」……。本来、人々に恐れられる存在だが、今、この森の中では「獲物」でしかなかった。

「うろちょろと逃げ回ってもムダですわ! ……みーちゃん!」

そう叫んだのは艷やかで暗めの銀髪を長く伸ばした美しい少女……鯰尾藤四郎。目もくらむ速度で動き回りながら、その所作には不思議なほどの気品が漂う。目を惹く髪は乱れながらもその絹のごとき輝きを失うことはない。凜とした声色もまた、その育ちのよさを感じさせた。

「……おしまい」

一方、呟くような調子で言ったのはもう1人の少女――乱藤四郎である。「幼い」という形容すら似合いそうなその少女は、しかし、その瞳に澄んだ静けさをたたえ、一種の色香に似た不思議な空気を身にまとっている。そんな彼女は冷静に流れるような動作で、一切の力みなく、あっさりと禍憑を両断する。
森に禍憑の断末魔が響いた。