夕暮れの中で海原が、轟、と音を上げる。
本州と九州。その二つの島に挟まれた細長い海峡の中で、潮の流れが立てるうなり声を聞いているのは、一人の少女だった。
異装である。全身を黒で覆った中、腰に差したるは鮮やかな朱の鞘。なにより、片目を眼帯で覆ったその姿は、街中であればさぞ目立ったことであろう。
だが、その時、少女を見るものは誰もいなかった。
(この音は、何も変わらないな……あの時と)
当たり前か、海の音が変わるわけもない……と、そんな詮無きことを考えた自らを嗤った少女の名はあざ丸。
巫剣の中でも古き歴史を持つ、由緒正しい一振りである。
かつて、あざ丸はこの場所で戦い……そして敗れた。
全てを失った。誇りも、大義も、主も――。
そして……それだけでは済まなかったのだ。
――ズキン
あざ丸の眼帯の奥で、右目が疼いた。
熱いようで、冷たいようで……そのどちらでもない感覚に、あざ丸はすでに慣れている。だが、その疼きは普段よりも激しかった。
(この場所であれば当然か……)
この身に宿る祟り。それが初めて悲劇を引き起こした場所だった。
主を失った悲しみがその身に焼付き、いつしか黒い渦となって彼女自身と周囲の運命を飲み込むようになった時、あざ丸は自身こそが祟りそのものであると理解した。
今では、右目を眼帯で封じ、神への供物とすることで、仮初に封印することは出来ている。だが、それは完璧とはほど遠い。いつしか、あざ丸は身を隠し一人で生きるようになった。せめて祟りが誰かを不幸にしないように……。