闇の中、何かが鳴いた。
それは鳥の声だったのかもしれないし、ただの風鳴りだったのかもしれない。
だが、この夜に起きたことを知って……人々はこう噂した。
「あれは、鬼の鳴き声だったのだ」と。

「さーて、どうしようかね」

美しい少女が問題の屋敷を見渡しながら呟いた。
真夜中……かつての数え方でいえば、もうまもなく「丑の刻」になろうという時刻だ。魑魅魍魎が跋扈する時である。
彼女の名は鬼神丸国重。長い髪を三つ編みにして頭の横から垂らし、残りの髪を後ろで一つに結っている。闇に溶け込むような外套を羽織っているが、その下から覗く脚は夜の黒と対照的に、鮮やかに白い。
深い闇の中にあってその存在は異様だった。もし見ていた者がいたら、こう思う者もいたかもしれない。
「鬼が出た」と。
そしてそれは、間違いではないのかもしれない。

鬼神丸国重は気配を殺し、夜の中を静かに駆けて屋敷の前に辿りつく。
奇怪な臭いが鼻につく。……いや、これは臭いではない。瘴気とでも呼ぶべきものだ。
(これは、当たりだね)
彼女は、与えられた情報と自分の直感が正しかったことを確信し、門前へと歩を進めた。