「……あれが菊一文字則宗さん」
「神速の剣技、見てみたいよね~」

 七香と八宵は、巫剣、菊一文字則宗を見かけてこんな会話を交わした。
 巫剣たちとは御華見衆として共に戦う仲間だが、あくまで後方支援の2人にとって、その戦いぶりをよく知らない巫剣もいたりする。
 だが情報通の七香でなくても菊一文字則宗の武名の高さ、特にその神速の剣技はよく知られている。
 しかし、そこいるのは、どうみても穏やかな雰囲気の美少女である。
 艶やかで長い髪、金の双眸にたたえた光は柔らかで、戦うもの特有の殺気など微塵も感じさせない。
 
「滅多に怒らないけど刀を抜くとまるで別人だとか」
「気になる~! よーし、後をつけてみよう♪」と、好奇心に火がついた八宵を止めることができないのを、七香はよく知っていた。
 早速、事件は起きた。
 ふらふら歩いていた酔っぱらいが、どん、とぶつかったのである。
 
「気をつけろや、ねえちゃん!」

 明らかに言いがかりなのだが、菊一文字は「すみません」と言って頭を下げた。
 
「滅多に怒らない、というのは噂通りみたい」と七香は感心する。