「おっさけ、おっさけはおいしいなぁ♪」

夕暮れ時、茜に染まった空の下。いいかげんな節回しの歌を口ずさみながら歩く一人の乙女の影があった。
白に近い銀の長い髪は艶やかで、その顔立ちは柔らかく、どこか育ちの良さを感じさせる。
そこだけ見ればどこかのご令嬢かとも思われる。
だが、乙女はどうみても「ただのご令嬢」ではない。
まず、まだ夕暮れ時だというのにベロベロに酔っ払っている。
まだ陽の高い時間から相当量を飲まないかぎり、こうはなるまい。
ご令嬢がそんなことをするわけがない。

「ひっるから、ぐびっと、かんろかなぁ~♪」

さらに、その身のさばき。
酔って千鳥足になっているにもかかわらず、そこには一分の隙もないことに見るものが見れば気がつくだろう。
それはまさしく、達人の歩法であった。
そしてなにより、その背中に負った巨大な酒瓶である。華奢な乙女がそんなものをいとも軽そうに担いでいる姿は尋常のものではない。
そう。乙女は瓶割刀。巫剣——その中でも群を抜く斬れ味を誇る存在だった。その実力は禍憑と戦う戦力の中で、主力級とされている。
ただし、残念ながら。
「あーー! わたし、いいことおもいついちゃった!!」

などと、誰も聞いていないのに大きな声で独り言を叫んでいる姿は、「酔っ払い」以外の何者でもなかった。
道に人影がなく幸いだった。こんな姿を見られていたら、他の巫剣の評判にも響きかねない。