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巫剣観察記

江雪左文字

江雪左文字

昨日の夜から降り積もった雪は、街を白く染めていた。
気温は著しく下がり、春先なのに真冬のような寒さ。
こんな日に私は何をやっているのだろう。いや、何とかじゃなくて、仕事なのだから仕方ないけど。
天気すらも私を見放すというのか……御華見衆での仕事についてからというもの、つくづく不運である。書かずにはいられないのでもう一度書く。つくづく不運である。

「ん……そろそろいけそう」
「うん、おねーちゃん、すっごくじょうずだね!」

こんな寒空の下、せっせと雪球を転がしている少女を遠くから見ている私は完全なる不審者ではないだろうか。いや、ないだろうかではない。私が女で無ければ確実に檻の中である。

「……次は、もう少し小さく作る」
「はーい! わかりましたー!」

少女もとい幼女と一緒にせっせと雪だるまを作っているのは、少し不思議な雰囲気の少女だ。
彼女の名は江雪左文字。人間ではなく、巫剣という存在。
あまり人と関わっているところを見たことはなかったのだが、私の持ち回りの日に通りがかりに雪だるまを作り始めるなんて、私の人生はどこかおかしい。

「ころころー、どすん! できた! どうどう!?」
「……上手。少し仕上げしても良い?」
「うん! おねがいね!」

顔も手もない雪だるま。仕上げと言うからには、雪だるまを人型に近付けていくのだろう。まぁ、さすがに今のままでは寂しいし。

「……はっ!」

江雪左文字の掛け声とともに白い雪が空に舞い踊り、視界を埋め尽くす。
次の瞬間、急激に気温が下がったのを感じた。

ひゃっくしゅん!
厚着してくれば良かったと心の底から思った。
……と、ひとまずそれは置いといて、雪だるまはどうなっただろうか。

「うわぁ! おねーちゃん、すごーい!!」
「私にかかれば当然。もっと大きいのでも構わない」
「ううん、だいじょーぶ!」

幼女がすごく喜んでいる。だが幼女よ、それでいいのか。
はっきり言おう。
雪だるまは――既に雪だるまではなかった。
細部へのこだわりがすごすぎて、遠くから見てもその圧倒的な存在感。
そこにあったのは幼女そっくりの氷像だった。

「あたしにそっくりだね! ふふふー、すっごくうれしい!」
「そう……寒くなってきたから、そろそろ家に帰った方がいい」
「あしたものこってるかな?」
「わからない。でも……また会えたら、もう一度作ってあげる」
「ほんと! やくそくだよ!」
「……うん、約束」

江雪左文字は幼女と指切りをして、手を繋いで歩いていく。その表情が少しだけ柔らかく見えたのは私の気のせいではないと思いたい。

「あとこれ……頑張った、ごほうび」
「ん? なんかきれいだね、ゆきみたい!」
「食べてみて。口の中で甘いのが溶けていくから。あーん」
「あーん……すごーい! ほんとにあまいねー!」
「そうでしょう。金平糖って言うの。少し、雪に似てるでしょ?」
「うん、にてる! でもあまくておいしいよ!」
「……良かった」

彼女もこういった反応をすることがあると知れただけで今日は素晴らしい収穫だろう。
これ以上の追跡は難しいし、私もようやくこの寒さから解放され――なかった。
何故か足が動かなかったのだ。
そんな私に江雪左文字が振り返る。私と視線が重なった――気がした。
彼女の目は先程までとは違い、とても冷たい視線。

「……見世物ではないから」

そう言ってるような気がして――はっとした。
足元を見ると、私の足が地面に張り付いていたのだ。
どう見ても、簡単に溶けそうな感じではない。
思わず涙が零れそうになる。どうして私はこう不運で不幸なのだ。
がさっと大きな音がして、私の肩に雪が積もる。
そして動かない足元に折れた枝が転がった。
うう、この仕事……やっぱり辞めた方が自分のためだろうか。


以上、御華見衆観察方より報告。