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巫剣観察記

一期一振

一期一振

ある巫剣が遠出するという情報を得て、わたしはそれを追うことを命じられた。
交通機関を乗り継ぎ、帝都から遠く離れた片田舎。遠方に覗く富士の山が綺麗だ。
その巫剣の名は一期一振。御華見衆内での妹番付で上位に入ると話題の巫剣だ。

普段は一生懸命に仕事をこなして、皆に可愛がられている彼女。そんな彼女が誰にも告げず、一人で急にこんな田舎を訪れるなんておかしいと思ってしまうのもわかる。
しかし、あまりに過保護な反応ではないだろうか。

「ふー、やっとつきました~」

彼女は小さく伸びをしたあと、農家の女性に向かって歩いていく。
そこでようやく、わたしは気づいた――ここは、苺畑だ。

「あらあら……久し振りね、いちごちゃん。お手紙読んでくれたのね」
「はい! 苺のために飛んできちゃいました!」
「あらあら、うふふ……今日は好きなだけ食べていってね。またしばらく食べられないでしょうから」
「ありがとう! いちご、いっぱい食べちゃうよー!」

苺は一般にはあまり流通していない果物である。それを好きなだけ食べられるなんて、どんなに幸せなことだろうか。羨ましい。本当に羨ましい。気軽に苺を食べられる家柄に生まれたかった。
それからしばらく、ひたすらに苺を食べる一期一振を見守る時間を過ごす。

「うーん、こっちも美味しいですっ! おおっ、こっちはこんなに大きい!甘いかな? どうかな? ふにゃあ、ちょっと酸っぱい……でも美味しい……あむ」
たまに酸っぱいのがあるのか、失敗したという顔をするものの、基本的には満面の笑み。見ているこっちまで、食べている感覚になる。
「わたしも……食べたい」
昔食べた苺はとても甘かったのを思い出した。もっともっと食べたかったけれど、一つしかないと言われて悲しくなったのを覚えている。ああ、苺……苺を食べれば、わたしもあんな幸せそうな表情を浮かべることができるのだろうか。
「あのー……どうかしましたか?」
そんなことを考えているうちに、一期一振が目の前にいた。

「あ、あばびぶべぼ」
「……ん? よくわかりませんよ?」
「な、なんでもないんです……! と、通りかかったら美味しそうに苺を食べる姿を見つけたものですから!」
「あ、そんなに浮ついてました?うぅ、恥ずかしい……」

必死に考えついた言い訳だったが、彼女は気に留めていないようだ。良かったと目線を下ろすと、彼女の手の中には真っ赤に熟した苺があった。

「良かったらこれ、差し上げます!」

駄目だとわかっているのに、目線が逸らせない。なんて、素晴らしいのだろうと、頭の中が苺でいっぱいになった。

「ずっと見てたの、知ってます。だから、受け取ってください」
「あ、あぁ……」
「とっても幸せな気分になれますよ♪」

彼女はわたしの手に苺をのせる。あぁ、受け取ってしまった。もう返すのは逆に失礼になってしまう。
恐る恐る口に運ぶと、懐かしい香りがした。半分だけ口の中に入れて、一噛み。甘さと酸っぱさが絶妙な配分で口の中に広がっていく。美味しいという一言では表せない何かがそこにあった。まるで、甘い蜜の滴る花園にでもいるかのようだ。そう、この感覚を表すには言葉が足りない。何か靄がかかったような感じがして。

「今のわたしはどんな顔をしてますか?」
「とっても素敵な笑顔ですよ」
「あ――」

それを聞いて、わたしは心の靄が晴れていく気がしました。
こんなにも素敵な感情を教えてくれた彼女を汚したくない。
彼女を守ってあげたいと、このときわたしは強く思いました。

「どうですか? 幸せを感じませんか?」
「はい、ありがとうございます。とても幸せな気分です」

決して苺のせいじゃない。わたしだけじゃなく、皆彼女を見ていれば幸せを感じることができるでしょう。

「じゃあ、もっともっと幸せになれますように、特別にもう一個です♪」

忘れないで。いちごの誘惑は、きっと皆の傍にあります。


以上、御華見衆観察方より報告。