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巫剣観察記

青木兼元

青木兼元

夜の上野公園に化け猫が出没すると巷で噂が広がっている。
発展の目覚ましい帝都に、そんな怪異があるわけがないと思う。
しかし、たいていそんな噂には巫剣が関わっているものだ。

早速行ってみると、そこは若い恋人たちの逢引きの場であった。
ちょっと一人で歩くことが憚れるほど、熱い逢瀬が行われている。

と、そこに「きしゃあああっ!」と甲高い猫の鳴き声が木陰から響いた。
猫が喧嘩をする時のような唸り声と鳴き声が幾重にも聞こえて来て、若い恋人たちが何組もほうほうの体で逃げ出してくる。
口々に「化け猫が出た」と叫んでいた。

私は恐る恐る、茂みに潜り、木陰を覗いてみた。
すると、可憐な少女が一人、数匹の猫たちに紛れて、地べたにしゃがみ込んでいた。

「大人しくしなさい、もういいのですよ。人間たちはあなたたちの縄張りから出て行きました。わっちがご飯をあげるから、もう心を乱したりしないでください」

抱きかかえた猫の爪に引っかかれ、噛まれても、微動だにせず、
澄んだ声が優しく語り掛ける。

「どうか、青木兼元の名において、穏やかに爪を納めてほしい。どうか、どうか、お願いします」

その少女は巫剣、青木兼元だった。
名匠である孫六によって生を受け、数々の戦場を駆け抜けた生え抜きの巫剣である。
その人格は、清廉潔白で正義の人であるという。

やがて、猫は大人しくなり、喉をゴロゴロと鳴らし始めた。
周囲の猫たちも穏やかな表情で、彼女にその身を寄せていく。

「わかってくれたのですね、今、ご飯を用意します、お待ちを」

青木兼元は背負っていたズタ袋から、煮干しと牛乳を取り出して、手を柄杓代わりにして猫に与えた。
慈愛に満ちた顔であった。
そして、チロチロと牛乳を舐める猫たちを見つめる彼女の顔は、まるで我が子を見るかのように頬を緩ませていく。

美しい…私がそう思った瞬間だった。

「誰だ! 覗きか、痴れ者め!! 夜の公園で覗きとは破廉恥極まりない…わっちが成敗してあげましょう!」

青木兼元はすっと立ち上げり、いきなり抜刀した。一応、すぐに峰打ちのため、刃の向きを返す。
その形相は、先ほどまでの聖母のような慈愛に満ちたものではなく、汚らしいものを排除する意思の籠ったものだった。

後日、青木兼元は上野公園に集まる野良猫たちの世話をしていることが分かった。
野良猫が増えるとネズミは減るのだが、野良猫の増えすぎも問題が多かった。
青木兼元は増えすぎた猫に餌を与えて、野良猫たちが悪さをしないように世話をしていていたのだった。

だが、上野公園は逢引きの名所であって……。
色々とまずい偶然が誤解を招き、私は今、病院のベッドで報告書を書いている。

報告には青木兼元は極度の猫好きと追記しておく。