トップへ戻る
MENU

巫剣観察記

小夜左文字

小夜左文字

最近、四谷では夜道を誰かにつけられている気がするという幽霊騒ぎが続いている。
懇意にしている商人に聞いた話では、どうやら黒髪の女を見たという者もいた。
もしかするとこの世ならざるものが関連しているのかもしれない……そう考えた私は、独自に調べることにしたのだ。

情報を元に日の光の無い夜の路地を進んでいると、小さな違和感を覚えた。
こつっ、こつっ、こつっ――。
一定の感覚で誰かが歩くような音がずっと聞こえている。
――ごっ!
大きな音に反射的に後ろを振り返るが、特に何か変わった様子はない。少し、意識しすぎているのかもしれなかった。
もう一度あたりを見回すが、やはり何もなかった。
安心して一息つくと、また前を向いた――そこに、影があった。
ひっ、という悲鳴を必死に飲み込んだ。本当に女なのだろうか。そう冷静に考えてしまうほど、頭が混乱しきっていたのだ。
私はどこを見ているのだろうか。影から目を逸らしてはいない。いないはずだ。でも、なんだ……なんなのだ。背中から感じる、おぞましい気配は……――。
――こつっ。
そして、後ろから誰かが立ち止まったように音が消えて――。
気づけば、私の首元に冷たい刀のような感触があった。そして――。

「わるいこ、だぁれ……?」

――耳元で声がして、私の意識の糸は簡単に切れた。


それから、私が目を覚ましたのはすぐのこと。
やはり周りには何もなく、私は一人で道中に座り込んでいたようだった。
あれは夢だったのだろうかと思うも、体の感覚がそうではないと言っていた。
もう一度周りを見る。そこには、私のものではない赤い糸が落ちていた。
意識を失う寸前、最後に見えたのは黒い髪をした、赤い布を首に巻いた女だったように思う。
ならば、あれは本当に現実だったのだ。
言い表しようのない恐怖を感じた私は、足早に宿へと戻った。

「……みぃつけた……」

その途中、意識を失う前に聞こえただろう女の声が耳を離れなかった。


ここからはその件に関しての事後調査となる。
あれから数日して、詰所に二人の商人が現れた。どうやら、詐欺まがいのことをしていたと自白したらしい。そして、このままではあの女に殺されてしまう、とも。
聞けば、その姿は黒い髪と首に赤い布を巻いた女だという。
それは復讐に協力する巫剣、小夜左文字に違いない。

結果的に、あの幽霊騒ぎは悪人を懲らしめる結果となった。だが、この詐欺事件には今回の商人だけでなく、他にも関わっている者が多い。細かい相手までは手が回らなかったということだろう。もし狙って行ったとすれば、詰めが甘い。
思い出してみれば、以前似たような報告書を読んだことがある。
その事件では、関わったもの全員が消ーー

――報告はここで途切れている――