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巫剣観察記

長曾祢虎徹

長曾祢虎徹

「よし! それならねーちゃん、この俺と勝負といこうじゃねぇか!」

どうしてこうなったのか。
提灯の釣られた机が並ぶ場末の居酒屋で、私は目の前に置かれた酒樽を前に思わずうなだれた。
他人事だと思って、店内は大盛り上がり。すっかり引くに引けない雰囲気になってしまっている。
はぁと溜息をついて、私の目の前、その原因を見つめた。
灯に照らされて光を反射する金の髪、強い意思を感じさせる瞳。
彼女の名は長曾祢虎徹。巫剣と呼ばれる刀剣の少女にして、
私の観察対象だった。
そう、だった――のである。
気づかれないように細心の注意を払っていたのだが、どうやら人の視線に敏感らしい彼女に気づかれてしまったのだ。

「よし、準備はできたな? ねーちゃんも準備はいいか?」

そう声をかけられれば頷くしかない。
ああ、失敗した失敗した失敗した……。
そもそもこの担当が間違っていたのだ。
私が気づかれた原因は「女が俺をじっと見てたら、だいたい怪しいやつだ」ということらしい。
確かに美人は男から視線を向けられると思うのだけど、女だとしても美人がいたら見てしまうと思う。口には出さないが。

「それじゃあいくぞ! 楽しもうじゃねぇか!」

そうして始まった飲み比べ。
ゆっくりと飲み続けている私に比べ、彼女の杯から酒がなくなるのは早い。
一杯、また一杯と最初は凄い勢いで差がついていたのだが……しばらく無心で飲み続けているうちに、いつの間にか追いついてしまっていた。

「く、もふ追ひついてきらか……ぐぐ……」

微妙にろれつの回らない声が聞こえた。
改めて彼女を見ると、既に顔は真っ赤……というか、どこからどう見ても酔っ払っている。
そこで、私もようやく思い出した。
彼女、酒は好きだが、決して強いわけではないのだ。
これであれば、私が勝つことも……。

「はぁー……うぐぐ……くー……」

寝ている!?
勝負中だというのに寝てしまってますよ!
観客もいつものことだとばかりに興味をなくして散り散りになっていく。
これはどうすればいいのだろうか。

「ううん……いい酒盛り、だったぜ……」

彼女を店主に頼むと、いつものことと苦笑していた。
でも、賑やかなのはいいことだと、店主も楽しそうだ。
良い笑顔を浮かべている彼女を見て、私もついつい笑みがこぼれる。
なお、酒代は私が出した。いつもいつもこういうときは私が払うことになるのだ。
出した回数を数えるのは、やめた。
もうこの仕事は続けられないのではないかと真剣に悩んでいる。

以上、御華見衆観察方より報告。