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巫剣観察記

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【特記事項】
本報告書において、現時点では当該巫剣名を秘匿情報とする。

「……その情報は本当か!?」

どよめきが起きた。
その日、観察方にもたらされた情報とは、このようなものだった。

「あの、【秘匿情報】が……物干し竿と立ち会う……!?」

【秘匿情報】。
そして物干し竿。
この二人の巫剣の間に因縁があることは、例え観察方でなくとも誰もが知っているだろう。
その因縁の二人が立ち会う。これは、事件だ。
そして、この超絶重要な情報をもたらしたのは。

「間違いありません、この耳でしかと聞きました」

……この観察方の花形。
私……超絶優秀な観察方である、この私だった。

「近頃、不始末が多かったが……少しは真面目に働くようになったか」
「……そ、それは運が悪かっただけです」

たしかに、私は最近調子が悪かった。
それは少々運が悪かっただけに過ぎない。
その証拠に、はじまったばかりの【秘匿情報】の観察任務において、私はこれほど重要な情報を手に入れることが出来たのだ。

「状況を説明してもらおう」

上官にうながされ私は静かに語りはじめる。
室内には静寂が満ちる……誰もが、私の言葉に耳を傾けている……ああ……気持ちいい……。

「場所は酒場です。その時、【秘匿情報】は瓶割刀と話していました……」


「ねーねー、瓶ちゃん」

【秘匿情報】は瓶割刀に語りかけた。
【秘匿情報】と瓶割刀。
【秘匿情報】は、褐色の肌から健康的な美を振りまいている。異性ならずとも惹きつけられる色香だ。
一方、その連れである瓶割刀は対照的に柔らかな雰囲気の美貌の持ち主だった。
二人はその場の視線を釘付けにしていた。
そして、そんな二人が飲んでいる机の向かい側に、私はごく自然に張り込んでいた。
この自然さ……まさに観察方の真骨頂である。

「もがもが(なんですか)」

瓶割刀は答える。もがもが言ってるが……その清楚な雰囲気は少しも揺らぐことはない。

「もぐもががが(いまスルメを食べるのに忙しいんです)」

スルメをかじっていても、その清楚な雰囲気は少しも揺らぐことはない……はずだ……。

「えっと……なに言ってるかわかんない」

【秘匿情報】は少し引いていた。一見、すこしやんちゃそうに見える【秘匿情報】だが、思いの外礼儀作法に厳しいのかもしれない。

「ま、いっか……うちさあ、今度、物干し竿と――」
「え、ええっ!? それ、マジっすか!!」
「まじまじー……って、瓶ちゃん、この人誰だっけ? 普通に一緒に飲んでたけど」

首をかしげた【秘匿情報】に、瓶割刀が答える。
どうやらスルメは食べ終えたらしい

「ああ、その方は最近出来た飲み友達ですよ♪」
「うぃっす!」

それを聞いて、【秘匿情報】はにっこり笑った。

「あ、そうなんだー、よろしくー! うちは【秘匿情報】だよ!」

そう言って笑った【秘匿情報】は実に可憐な笑顔だった。

「よろしゃっす!! じゃあ、お近づきのしるしに……カンパーイ!」
「やば! うちら、めっちゃ気があうかもー!!」
「……ちょっと待て」

私の上官が話を止めた。

「一つ聞きたいんだが……この、やたらノリの軽い体育会系の人は……」
「自分です。観察方とバレないために、そういう性格を装っています」
「あ、ああそう……そうだよな……」

上官はなぜか引きつった笑顔を浮かべて続けた。

「ちなみにこの机って、何人掛けだった?」
「ごく普通の四人掛けです」
「『机の向かい側に、ごく自然に張り込んでいた』って言ってるが、……これは相席だったのかな?」
「相席じゃありませんよ。私は店に入った時から一緒でした……相席なんて不自然じゃないですか。観察がバレます」
「それって……」

上官が私をじろり、と睨んで言う。

「張り込みじゃなくて、普通に瓶割刀と飲みにいってるよね?」
「むむ……ま、まあそういう言い方も出来ますね」
「ところで、観察方の基本を覚えてるかな?」

急な上官の質問に私は呆れてしまう。
私は熟練の観察方だ。分からないわけがない。

「観察対象の巫剣に知られないように、密かに情報収集をすることです」
「だったら、一緒に飲みにいくっていうのはどうなの……」
「で、でも! 私の観察対象は【秘匿情報】に変わったじゃないですか。だから、仲の良い瓶割刀から【秘匿情報】の情報を収集しようと思ったのです。そうしたら、『【秘匿情報】さんのこと気になるなら一緒に飲みいきますか~?』って瓶ちゃんが言うから……!」
「…………めっちゃ仲良くなってるやん」

上官がぼそっと呟いた言葉は、私にはよく聞き取れなかった。

「え? なにか言いました」
「もういい……」

上官はなぜか不満そうだった。

「で、でも【機密事項】ですよ! 【機密事項】! こんな重大な情報を掴んだ功績を褒めていただきたいものです!!」

この勢いで押し切らなくては。

「まぁ確かにこれは一大事だ……! その一部始終を見届け仔細にわたって報告するように!」

なんとか勢いだけでごまかせたようだ。さすが私。

そして、当日がやってきた。
そこは、立ち会いに相応しい雰囲気……ではなく。
ごく普通の、のどかな茶店だった。
だが、情報は間違っていない。その証拠に私の目は、茶店の奥の席に座る褐色の美少女の姿をとらえた。
すぐに私の姿を見つけ、【秘匿情報】が手を振ってくる。

「あ、来た来た〜! こっちこっち!」

私が近寄っていくと、【秘匿情報】は隣の席を示す。

「ここ座ってー。物干し竿ももう来るはずだけど……。あのコのんびり屋だからさあ」
「え、そうなんすか!? ……神速の剣術使いって思ってました」
「意外と素は逆なんだよねー! 世間の印象と実際って」
「そうっすねえ……【秘匿情報】さんもそうかもっす」
「え、うちも?」
「もうちょっと怖い印象あったっす! 剣の道を極める求道者って感じで」
「んー、剣は、やっぱ自然体になるのが大事! だから、うちはずっとこんな感じだよ」
「おお、勉強になるっす」
「おまたせしましたー」
「お、来たねー! 超おひさ!!」
「おひさしぶりですねー、そちらの方ははじめてですねー、わたくし、物干し竿といいますー」
「じゃあ、久しぶりのお茶会はじめよ!」

その一言で……私は凍り付いた。

「え……お茶会……っすか?」

あやうく、演技をやめてしまいそうになる。

「そうそう、お茶会……って、言ってなかったっけ?」
「立ち会い……ではなく?」
「立ち会い……うちと物干し竿が……?」

【秘匿情報】はこてん、と首をかしげる。
そして、次の瞬間吹き出した。

「その冗談面白い~!! それじゃ【機密事項】じゃん!」
「えー、【秘匿情報】さんとはー、【機密事項】でー、戦ってないですよー。あの時は、木刀さんがお相手でー」

そんな二人ののどかな会話を聞きながら、私は、ようやく気付いた。
【秘匿情報】は立ち会いなんて、最初から言っていなかったことに。

「でも【機密事項】といえば、昔は物干し竿ももっと尖ってたよね~」
「まぁーそんな時代もありましたねー。でもー【秘匿情報】さんこそ、昔はもっとやんちゃだったじゃないですかー」
「ちょっとやめてよ~!」
「挑んでくる相手から寄って来る禍憑まで、片っ端から叩きのめしてましたもんねー」
「もう昔の話はやめやめ~! それよりここのお茶がね……」

お茶会、まごうことなきお茶会だ、これは。
……しかし、問題ない。
私はまた、重要な情報を手に入れた。
【秘匿情報】と物干し竿は、茶飲み友達である。
……ついでに私も。

以上、御華見衆観察方より報告

【特記事項2】
担当観察方に一ヶ月の禁酒を科す