トップへ戻る
MENU

巫剣観察記

水心子正秀?

水心子正秀?

「あーあ、御華見衆の連中、今夜あたり全員首寝違えねーかなー」
「Wimp……なにをしょっぱなからショボイ願望を口にしているのよ」
「でもそれにはわたくし様も同感~」

その日、長曾祢虎徹、ソボロ助廣、水心子正秀の影打3名は湯屋に来ていた。
並んで湯船に腰まで浸かり、今日も悪巧みめいたことを話し合っている。

「それならいっそこの風呂におびき出して一網打尽にしてやるってのはどうだ? 丸腰のところをねちっこく攻め立てて悲鳴を上げさせるって寸法だ」
「Wonderful! いろんな意味でいやらしい作戦ね。でもその前に、わたしたちの次の食い扶持を確保することが先決だと思うのだけど」
「スイシンシの言うとおりよね~……。先立つ物がないと生活もままならないわ」

影打・ソボロ助廣は両手で湯をすくい上げると切なげにため息をついた。

「はぁ……。もっと広くて高級な温泉に浸かりたい……。温泉宿に夜はご馳走。移動はぜーんぶ馬車……」

贅沢がしたくてたまらないといった様子だ。
だが影打・水心子正秀は心外だと言わんばかりに眉を寄せた。

「Silly……あなたといっしょにしないで。合理的に考えて充分な資金がなければ何事も大成なんてできない。わたしはそう言っているのよ。遊興や贅沢のことしか頭にないあなたとは違うのよ」
「あ~ら言ってくれるわね。それじゃスイシンシはこの先もずーっと素麺だけ食べてなさい。あなたにはそれがお似合いよ♪」
「なんですって?」
「テメェらうるせー。喧嘩なら外でやれ」
「バカコテツは黙って。なによ、ガサツ単細胞の癖にいつの間にかまとめ役ぶっちゃって。本来ならもっとも優秀で頭の切れるわたしこそふさわしいのに」
「お、そこで俺にも絡んでくるか。いいね。お嬢様の精一杯の啖呵が心地いいぜ」 
「Idiots!! ……フン、これだから不完全な巫剣は嫌いなのよ。恥ずかしいからわたしから離れてくれる?」

一触即発かと思われたが、影打・水心子は悪態をつくとそっぽを向いてしまった。
それを見た影打・長曾祢虎徹は影打・ソボロに肩を寄せてささやいた。

「おいおい、スイシンシの奴、あれだけのことでマジに拗ねたのかよ? なんか根暗っつーか、けっこう面倒臭いヤツだなー」
「そうねえ。前々から思ってたけど~無駄に意識が高いって言うか~頭が硬いって言うか~。ちょっととっつきにくいかも」
「俺たち、なんだかんだ会ってからまだそんなに経ってないからな。ここへきて性格の癖っつーか、本性が見えてきた感じだぜ」

彼女らは現在一つ屋根の下で寝食を共にしている。しかしただでさえ気性が激しく、癖の強いこの3人。いっしょに暮らせば当然、四六時中仲よしこよしとはいかない。

「別に俺たちはトモダチってわけじゃねえし、仲よくする必要もねえんだよな」
「と言うか、わたくし様ってぇ~トモダチなんてヘドが出るし~これっぽっちも必要ないけどね♪」
「同感だ」

今は一時的に協力関係にあるだけ。そのように認識しているらしかった。

「で? あの子どうするの? 面倒くさいから放っとく~?」

影打・ソボロが面白そうに笑う。

「そうだな。ふつうなら放っとくとこだが……」

影打・虎徹は桜色の唇を少し尖らせて考えていたが、やがてニヤリと笑った。

「残念ながら俺はああいう捻くれた高飛車女に絡みまくって心底嫌がる顔を見てやるのが大好きなんだ。だからどんどん接近して嫌がらせする!」
「まあ~、こっちも面倒くさい人!」

影打・虎徹はザバザバと湯をかき分けて影打・水心子に近寄ると、無理やり顔を覗き込んだ。

「なあ。もしかして怒ってんのか? あれ? まさか泣いてるとか?」
「な、泣いてるわけないでしょう! なんなのよ。人の入浴の邪魔をしないで」
「だから泣くなって。お詫びにお嬢様の背中流してやるからよ」
「え?」
「おーいソボロ、スイシンシの全身をくまなく洗ってやろうぜー」
「ええッ!? ちょっと――」

宣言通りのうざ絡みだった。そのまま影打・虎徹は戸惑う水心子を羽交い締めにし、洗い場へ連れて行く。
その様子を眺めていたソボロは思わずこう漏らす。

「どっちも距離の詰め方が不器用ね~。でもそこがかわいいといえばかわいいかも♪ まあそれはそれとして」

彼女は湯船から上がるとためらわず虎徹に協力した。

「確かにスイシンシの困り顔は魅力的だわ~♪」
「Don't touch me! その手を離しな……い~や~~!」
「暴れないで~暴れないで~」
「いいぞ! ……ってソボロ! どこ洗ってんだ! そ、それは俺の胸……!」
「そんなこと言われても湯気でよく見えないんだもの。紛らわしいんだからその無駄に育ったモノどこかへしまってちょうだい。まぁ~わたくし様に比べたら貧相も貧相だけどぉ~」
「す、す、好きででっかくなったんじゃねえ! っていうか褒めてんのかけなしてんのかどっちだ! 表出ろ! ぶち殺してやる!」
「時々うぶになるコテツのその性格ってなんなのかしら~。も~面倒ねえ」
「コテツ……ソボロ……あなた達いい加減にしなさい!」

結局日課のような口喧嘩が始まってしまった。
やがて口喧嘩は取っ組み合いとなり、最後には風呂桶が宙を舞う大乱闘へと発展していった。
おかげで3人は翌日からしばらくその湯屋を出禁になったが、以前よりも不思議と呼吸が合うようになったとかならなかったとか。

以上、のぼせてたんこぶもできた御華見衆観察方より報告